火事から一夜明け、全焼した我が家を見つめる亜衣子の祖父、澤邑義史の姿があった。
家は部分的に燃え残っているが、とても人が住める状態ではなかった。
義史は警察や消防署と現場検証を行い、出火の原因はガス漏れに火が引火したと告げられた。
しかし、火事の原因は作られたものだと確信していた。
隣で全焼した家を無言で見つめる翔太の姿もあった。
家が燃えたショックもあるが、それ以上に愛犬ベンの死が悲しくて仕方が無いようだった。
そんな義史の脳裏に昨晩の事が思い出される。
旧友瀬村の事が・・・
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【9日目:火事の夜】
「せ、瀬村・・・オマエ・・・」
「澤邑・・・久しぶりだな」
燃える我が家の前で出合った旧友瀬村・・・
しかし、義史の目には招かざる客であった。
「何だ!何をしに来たこの島へ・・・」
険しい表情で言い放つ義史。
しかし、その言葉を遮るかのように瀬村は一言だけ言葉を継げた。
「龍の子だ・・・」
義史は龍の子と言う言葉を耳にすると、言葉に詰ってしまった。
「8日前、この島で龍の波動が観測された・・・それで私がこの島に派遣されたのだ」
「・・・・・・・」
義史は言葉が出ない・・・
そして表情は険しいままだった。
「その波動に見せられた能力者が3名、この島に・・・」
瀬村の声は聞こえている様で聞こえていなかった。
義史は別の事が脳裏に浮かんでいた為である。
それは8日前・・・龍の波動で咲神山の祠の周りが崩れた時、波動に気が付いた亜衣子の事を・・・
龍の波動は一般人が感じる事は出来ない。
そして何より、亜衣子が持ち帰った手毬の事を・・・
今度は義史が瀬村の言葉を遮る。
「亜衣子は・・・亜衣子は無事なのか」
瀬村は言葉を止め義史を見つめる。
そして、再び口を開いた。
「うちの若い奴が、保護をした・・・龍の子と一緒にな」
「そうか・・・」
義史は目を遮り瀬村から視線を外した。
「明日、俺もこの島を発つ・・・その前にもう1度会いに来る」
瀬村はそう告げると、その場からゆっくり立ち去って行った。
「かってにせい」
義史には、そう告げるのが精一杯だった。
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服の裾を誰かが引っ張っている。
その感覚で義史は我に返った。
裾を引っ張ったのは翔太だった。
「ベン・・・天国へ行ったよね」
無垢な瞳で義史を見つめる翔太。
「ああっ行ったとも、天国へな」
「じゃあお姉ちゃんは・・・」
「亜衣子は怪我をしてな・・・遠くの病院へ行ってしまった」
「いつ帰ってくるの?」
「そうじゃな・・・少し先かも知れんな」
義史にはそう答えるのが精一杯だった。
そうしていると、消防署の人が義史に声を掛けてくる。
「すみません、警察の方が・・・」
そう答える先には瀬村の姿があった。
「すみませんが、少しの間この子を見ていてくれませんか?」
「ああっ良いですよ」
義史は消防署の人に翔太を預け瀬村の元へ向った。
「もう、発つのか・・・」
「色々忙しくてな・・・老体には響くわ」
「おまえも、もう年だ・・・そろそろ現役を退いたらどうだ」
「まだまだ、やめれんよ・・・」
「そうか・・・」
しばし、沈黙が続く・・・そして、義史は重い口を開いた。
「亜衣子は無事に帰してくれるんだろうな・・・龍の子はお前達が好きにすればいい・・・しかし亜衣子は関係ないんだ!早く普通の生活に戻してやってくれ」
「何もなければ直ぐに帰すさ・・・」
瀬村はそう告げると、その場から立ち去ろうとした。
「セス!」義史は大きな声で瀬村をそう呼んだ。
瀬村は歩みを止め、再び義史を凝視した。
「澤邑、俺は龍から逃れる事は出来ない」
二人は視線を外さない。
「所詮おまえの様に逃げても再び龍に結びつく・・・」
瀬村はそう告げると、その場を後にした。
義史も、再び瀬村の歩みを止め様とはしないのだった。
春の陽気が、咲神山を包む季節に起こった龍の波動・・・
その出来事が、一人の少女の生活を大きく変えてしまったのだった。
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