息子琢也と妻を探し、私は洞窟に足を運ぶ・・・
「琢也っ・・・琢也・・・」
私は叫ぶというより呟きながら、助けを求めるように息子琢也を探した。
洞窟に入ると、直ぐに何かを祀ったしめ縄と祠がけが目に付く。
洞窟内には誰もいない
『そんな事は無い・・・何処かに・・・何処かに琢也はいるはずだ』
私は暗い洞窟を必死に探した。
すると、奥に横穴がある事に気がついた。
横穴には進行を塞ぐ鎖が張ってあったが、私はその鎖を跨ぎ、その横穴へ吸い込まれる様に入っていった。
中は思ったより広いが、視界が悪く気温が低い。
私は目を細め、手探り状態で前へ進んだ。
・・・その時だった
「お前は何故息子を探す・・・幸せだった事を思い出す・・・」その声は性別も分からない不気味で小さな声だった。
「誰だ・・・お前だ誰だ!」私は自然と声が大きくなった。
「私は問い掛けたはずだ・・・本当にそう思うのか?・・・と」「何を言っている!お前は誰だ!」「我はみのたま・・・真実を語りかける者・・・」「真実を・・・何を言ってる!今日俺は妻と・・・息子と・・・3人で・・・だが、はぐれて・・・いなくなって・・・ううう・・っううっ」
何故か私は弱気になって、声が低くなり、次第に唸り声になっていった。
「真実を欲するのか男よ・・・真実を知りたければ前へ進め・・・その先に真実はある・・・」語りかけるみのたまの声が消えると洞窟の先に光が見えた・・・出口だ・・・
私は助けを求める様に歩を進めた。
私は何も考えず・・・みのたまの声にすがる様に・・・ただ、ひたすら前に進んだ。
光の先に…
バッ私は大量の汗をかいていた。
周りの気温は低い・・・そう、今は夏ではなく冬・・・
私は神社でも洞窟でもなく自分の部屋の寝室で寝ていたのだった。
悪夢を見たのである・・・私の妻と子供はここにはいない。
去年の夏・・・妻は私に愛想を尽くして出て行ったのだ・・・息子琢也を連れて・・・
私は絵に書いたような父親ではなかった。
仕事が終わってから毎日の様にアルコールを飲んで帰り、休みの日はいつもパチンコ…競馬…会話などまるで無かった。
暴力を振るう事は無かったが、毎日自分勝手に生きてきた。
あの夏の日も、自分勝手に予定を立て良いお父さんを演じようとしていた。
みのたまの「本当にそう思うのか?」という言葉が胸に刺さる。
「違う・・・俺は違う・・・そう思える訳がない」
朝からアルコールを飲み、歩く足もままならない。
息子琢也は妻と手を繋いで歩き、私は一人で後ろを歩く。
琢也が「りんご飴が食べたい」と言って、妻に買って貰っていていた時も、私はタバコをふかし離れた位置でそれを見ていた。
その姿を見た妻が、絶望する顔も見てしまった。
その場から妻と琢也は姿を消した。
俺は逃げる二人を追いかける事も無く、その場で再びタバコをふかしていた。
ガラにもなく、周りの目を気にしていた・・・おどおどする自分を見せたくない・・・小さな見栄の為に・・・
『どうせ家に帰っただけだろ』
そんな甘い考えに・・・
それ以来、息子琢也に会っていない・・・妻との連絡もままならない・・・
そう、俺は最低な父親だ・・・
もう1年半になる・・・だが、思い出す度に自分を責める。
「おっ俺は最低な父親だ・・・つまらない事で家族を失ってしまった」
絶望する
自然と涙が流れ、周りの音や景色でさえ五感から消えた。
その時・・・・・
「私は2度問い掛けたはずだ・・・本当にそう思うのか?・・・と」私は驚き目を見開いた・・・みのたまの声は夢だと思っていた・・・今もそう思う・・・だが、確かに聞こえた・・・身のたまの声が・・・
「本当にそう思うのか?」何時・・・何時みのたまは俺に問いかけた「本当にそう思うのか?」・・・と
しかし、私は中々思い出せなかった。
私は目を閉じ必死に思い出そうとする・・・・・・・そして、かすかに思い出した。
倒れている私を置いて逃げる妻と息子の姿を・・・
妻は本当に私に絶望したのか?・・・私が追いかけてきて欲しかったのではないのか?
私は頭を抱え再び絶望した・・・取り返しの付かない事をした事に今更気がついたのかもしれない・・・
妻と連絡が取れた時、私は必死に自分の過ちを詫びた。
そして、いい父親になるからと根拠のない言い訳を繰り返した。
でも、妻が待っていた言葉は息子琢也への気持ち・・・そして妻自身への気持ちだった。
その事に今気が付いた・・・1年半も掛かった・・・その気持ちに気がつく事に・・・
もう失いものは無い・・・もう一度連絡を取ろう・・・妻朋子と息子琢也に・・・
ダメでもいい・・・今よりもっといい・・・取り戻せなくてもいい・・・気持ちを伝えたい。
私は心から思った・・・自分自身の魂・・・みのたまに・・・
その後、私は直ぐに気が付く事になる・・・携帯に着信がある事に・・・
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